導入
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簿記には、自分たちが管理するための「内向きの顔」と、株主や銀行に見せるための「外向きの顔」の2つの顔があることを理解する。
あなたはレストランの店長です。
厨房の中(経理部)では、「玉ねぎ」「人参」「じゃがいも」と細かく在庫を管理していますよね。これが私たちが今まで学んできた「勘定科目(かんじょうかもく)」です。
でも、お客様(株主や銀行)に出すメニュー表(決算書)に、「玉ねぎ・人参・じゃがいも煮込み」とは書きませんよね? もっと分かりやすく「特製カレー」と書くはずです。これが決算書に載る「表示科目」です。
この単元では、自分たちが毎日使う細かい「帳簿の中で使用する科目(勘定科目)」を、どうやって外に見せる「決算書に載せる科目(表示科目)」へと変身させるのか、その秘密に迫ります。
全体像
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今回は「内部」と「外部」の視点で全体を整理します。
| 視点 | 内部管理(記録)の世界 | 外部報告(報告)の世界 |
|---|---|---|
| 目的 | 毎日細かく正確に記録する | 外部の人に分かりやすく報告する |
| 道具 | 主要簿(必須)と補助簿(サブ) | 財務諸表(B/SとP/L) |
| 言葉 | 勘定科目 (現金・当座預金・仕入 など) | 表示科目 (現金及び預金・売上原価 など) |
step1.勘定科目と表示科目
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「勘定科目」は、B/SやP/Lを作る時、投資家が見やすい名前に「集計・変身」します。変身にはカンタンなものと、少し複雑なものの2パターンがあります。
パターンA:単純な変身(資産負債の例)
ただ足し算して、名前をスッキリさせるだけのカンタンなパターンです。
投資家にとっては、「A銀行にいくら、B銀行にいくら...」という細かい内訳よりも、「会社として、今すぐ使えるお金がトータルでいくらあるか」の方が重要だからです。
パターンB:複雑な変身(商品売買の例)
ここからが本番です。現金や預金は単純な足し算でまとめられましたが、「商品売買(仕入や売上)」は単純な足し算では表示科目の金額を作れません。
まず、「スタート(日々の記録)」と「ゴール(決算書の表示)」の関係を見てみましょう。最も一般的な商品売買の記録方法である「三分法」という方法で記録している場合、名前がガラッと変わります。
なぜ、商品売買の勘定科目だけ、こんなに特別で名前がガラッと変わるのでしょうか?
それには、簿記が持っている「内部の自由」と「外部のルール」のギャップが関係しています。大きく2つの理由で説明しましょう。
実は、商品の日々の記録方法には「三分法」「分記法」「売上原価対立法」など、色々な流派があります。(※今は名前だけでOKです。「いろんなやり方があるんだな」と思ってください)
毎日マメに計算する会社もあれば、とりあえず買った分だけ記録しておく会社もある。厨房での「調理法」が店によって違うように、会社内部での帳簿のつけ方は自由でバラバラなのです。
ここが最も重要です。内部の記録方法がどれだけ自由でも、お客様(株主や銀行)に見せる決算書(メニュー)の表示方法は、「全員共通のルール」で厳格に決まっています。
どんな記録方法を選んだ会社でも、P/Lには必ず「売上原価」という表示科目で報告しなければならないという絶対のゴールが存在します。
多くの会社(三分法)では、日々の帳簿に「仕入(費用)」という勘定科目を使って記録しています。しかし、決算書には絶対に「売上原価」として載せたいのです。
「仕入」と「売上原価」は似ているようで全く別物です。外に見せる表示科目(ゴール)が変えられない以上、手元の勘定科目の数字がそのまま使えない場合は、決算の時に「表示科目の数字になるように計算して作り直す」必要があるのです。
1 「仕入」と「売上原価」の違い(超重要)
ここで言葉の定義をはっきりさせておきましょう。ここを曖昧にすると、決算で迷子になります。
もし、仕入れたおにぎり(100個)が、その日のうちに全部売り切れたら、「仕入」と「売上原価」は同じ金額になります。
しかし、商売では必ず「売れ残り(在庫)」が出ますよね?
売上原価: 80個しか売れなかった。(8,000円)
売れ残り(在庫)の20個分、「仕入」と「売上原価」の金額にはズレが生じます。
もし、P/Lに「仕入 10,000円」をそのまま費用として載せてしまったら、どうなるでしょうか?
これでは、「本当は順調に売れているのに、仕入れすぎたせいで赤字に見える」というおかしなことが起きてしまいます。
正しい成績(利益)を計算するには、「売上(80個)」には「売れた分のコスト(80個分)」だけをぶつけなければならないという絶対ルール(費用収益対応の原則)があります。
だからこそ、決算の日に「仕入」の数字から売れ残った分を除外して、真実のコストである「売上原価」を計算する帳尻合わせ(=決算整理仕訳)が必要になるのです。
2 最強の思考ツール「商品BOX」
では、決算での「帳尻合わせ」はどのような理屈で行われているのでしょうか?
それを一発で視覚的に理解できるのが、プロの経理マンも必ず頭の中に持っている最強の思考ツール「商品BOX」です。
会社によって記帳方法は違っても、「トラックからおにぎりが届き、お客さんが買っていき、残りが棚にある」という物理的なモノの動きは絶対に同じですよね。その共通の動きを図にしたのが以下の箱です。
これは正式な帳簿(勘定科目)ではありません。計算用紙に書く「メモ(図解ツール)」です。 しかし、プロも必ず頭の中にこの箱を持っています。
イメージとしては、「もしも『商品』という資産の勘定科目があったら?」と仮定したTフォームです。
(仕入れた額)
P/Lへ
資産が増えるホームポジションは左です。
「①去年からある分(期首在庫)」と「②今年買った分(当期仕入高)」の合計が、今年売るために準備したモノのすべてです。
準備したモノの運命は2つしかありません。
売れていった(③売上原価) ➡売上に対応する費用なので、P/Lの「売上原価」になります。
残っている(④期末在庫) ➡来年売る在庫なので、B/Sの「商品」になります。
資産(商品)と費用(売上原価)はつながっています。
「お店から出て行って、売上に貢献した分(右上)」が費用になり、「まだ残っている分(右下)」が資産として残る。
これは商品に限らず、切手(通信費/貯蔵品)など、すべての「費用性資産」に共通する黄金ルールです。
投資家は「今年いくら分仕入れたか(左側)」には興味がありません。知りたいのは「いくらのコストで稼いだか(③売上原価)」と「今いくら在庫を持っているか(④期末在庫)」です。
だからこそ、決算書(メニュー)に表示するのは、絶対に商品BOXの「右側(③と④)」でなければならないのです。
この「右側を報告する」というルールは絶対です。会社の中で「三分法」を使っていようが、「売上原価対立法」を使っていようが、外部に報告する最終的な数字は絶対に商品BOXの③と④で変わりません。
実はこれ、簿記を学ぶ皆さんにとって最強の武器になります。
もし、テストや実務で「あれ? 今後学んでいく決算整理の仕訳(しーくり・くりしー)ってどう書くんだっけ…?」とパニックになっても、焦らなくて大丈夫。
とりあえずメモ用紙にこの「商品BOX」を書いてください。そしてパズル感覚で③(売上原価)と④(期末在庫)の数字さえ計算して埋めることができれば、複雑な仕訳が書けなくても、P/LとB/Sに載る正しい金額は一発で分かってしまうのです!
まずは「どんな記帳方法でも、箱の右側がゴールなんだ」ということだけ、強く頭に焼き付けておきましょう。
3 三分法と売上原価対立法
ここは「処理ルートの違い」を詳しく見たい人向けです。
まずは、どんなやり方でも、最後のゴールは同じになるということだけ分かっていればOKです。
目指すべき絶対のゴールは、決算書に載せる「商品BOXの右側(③売上原価と④期末在庫)を確定させること」だと分かりました。
では、このゴールにたどり着くために、日々の業務でどのようなアプローチをとるのでしょうか?
ここでは、簿記の世界で使われている「三分法」と「売上原価対立法」という2つのやり方を紹介します。
この2つのやり方を通して、まったく違う処理(記録)の方法から、どのようにして同じゴール(決算書の正しい数字)にたどり着くのかを見てみましょう。山の頂上(ゴール)に向かって、違うルートで登っているイメージを持ってください。
- 三分法: 商品売買の取引について、「繰越商品」「仕入」「売上」の三つの勘定を使用して記帳する記録方法。
- 売上原価対立法: 商品売買の取引について、「商品」「売上原価」「売上高」の三つの勘定を使用して記帳する記録方法。
| 項目 | 三分法 | 売上原価対立法 |
|---|---|---|
| 仕入時 | (仕入) ×× / (現金) ×× | (商品) ×× / (現金) ×× |
| 売上時 | (現金) ×× / (売上) ×× |
(現金) ×× / (売上) ×× (売上原価) ×× / (商品) ×× |
| 決算整理直前の 勘定の意味 =前T/B |
仕入:当期仕入額
(売れた商品に対応する原価ではなく、あくまでも当期に仕入れた額)
繰越商品:期首商品棚卸高
(期首時点であった商品の在庫額=前期末の売れ残り)
売上:当期売上額
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売上原価:当期売上原価
(売上に対応する原価=売れた商品の原価)
商品:期末商品棚卸高
(当期末の在庫額)
売上:当期売上高
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| 決算整理仕訳 |
(仕入) ×× / (繰越商品) ×× (繰越商品) ×× / (仕入) ×× |
なし |
| 決算整理後の 勘定の意味 =後T/B |
仕入:当期売上原価
繰越商品:期末商品棚卸高
売上:当期売上高
売上原価:当期売上原価
商品:期末商品棚卸高
売上:当期売上高
決算後は、勘定名が違っても数字の意味はそろいます。 |
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