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導入(フック & Why)
最小結論(この単元のゴール)

簿記とは、会社の「家計簿」をつけることであり、最終的に「いくら儲かったか(成績表)」と「いくら持っているか(財産目録)」の2つの報告書を作ることがゴールである。

☕ もしも、あなたが「カフェ」を開いたら?

想像してみてください。あなたは念願のカフェをオープンしました。
毎日、お客さんが来て、コーヒーが売れ、豆を仕入れ、家賃を払います。

しかし、あなたは「メモ(記録)」を一切取っていませんでした。

1年後、あなたはこう思うはずです。
「あれ? 今、手元にお金があるけど、これは儲かったお金なの? それとも銀行から借りたお金だっけ?」
「来月、家賃を払うお金は足りるのかな?」
「この店は、結局うまくいってるの? いってないの?」

利益...? 借金...? 現金はあるけど...

記録がないと、「自分の現在地」も「進むべき方向」もわかりません。これでは経営(舵取り)ができませんし、銀行もお金を貸してくれません。
だからこそ、会社には「お金の動きを記録するルール」が必要です。それが「簿記」です。

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全体像(俯瞰図・構造マップ)

まずは、簿記という活動の「地図」を見てみましょう。
簿記は、日々の活動を記録し、最終的に「決算書(財務諸表)」というレポートを作るプロセスです。

簿記の流れ
日々の活動 (商品を売った、備品を買った) 簿記の技術 ① 仕訳:日々の記録をつける 仕訳帳という帳簿に仕訳を記入 最重要! ② 転記:項目ごとに集計する 総勘定元帳という帳簿に仕訳を転記(書き写す) ③ 決算整理前試算表を作成する 帳簿に記録された一年分の取引は膨大な量になるので、結果(例:一年間の売上合計は いくらか)を試算表という一覧表にして、集計ミスがないかチェックします。 ④ 決算整理をする 各項目の中で修正する必要のある項目を修正する(決算整理仕訳) ⑤ 決算整理後試算表を作成する 決算整理した後に再度試算表を作成して ミスがないかチェックします。 ⑥ 帳簿の締切 ⑤を作成して数値にミスがないことを確認した後に、帳簿を締めて、 当期と次期の区切りをつけます(決算振替仕訳) 最終ゴール(財務諸表の作成) 貸借対照表 B/S (会社の財産を表す表) 損益計算書 P/L (会社の経営成績を表す表)

【簿記の技術(6つのステップ)】
 ↓ ① 仕訳(最重要):日々の記録をつける
 ↓ ② 転記:項目ごとに集計する
 ↓ ③ 試算表作成:集計ミスがないかチェック
 ↓ ④ 決算整理:ズレを修正する
 ↓ ⑤ 決算整理後試算表:最終チェック
 ↓ ⑥ 帳簿の締切:今年を終わらせる
【最終ゴール】
 ↓ 財務諸表(B/S・P/L)の作成

頻出用語早見表(この単元のキーワード)

この単元では、以下の言葉の「イメージ」だけ掴めればOKです。

用語 定義(正しい意味) 意味(ざっくりイメージ)
簿記 企業の日々の取引を記録・計算・整理する技術のこと。 お金の「日記帳」「家計簿」
財務諸表 企業の財政状態と経営成績を報告する書類の総称。(決算書とも呼ぶ) 会社の「健康診断書」「通知表」
貸借対照表
(B/S)
決算日時点の財産の状態を表す表。 決算日に現金がいくらあるか。借金がいくらあるか。
損益計算書
(P/L)
一定期間(=会計期間:通常は一年間)の収益・費用・利益を表す表。 今年の利益(=収益-費用)はいくら??
会計期間 記録や計算を行う区切りとなる期間。通常は1年(4/1〜3/31など)。 「集計の区切り」
(ここからここまで!の期間)
期首 会計期間の始まりの日。(4月1日など) 「スタート地点」
期末 会計期間の終わりの日。(3月31日など)。決算日とも言う。 「ゴール地点」
当期 今行っている会計期間(期首から期末まで)。 「今年の活動期間」
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Step 1:言葉の定義(簿記=帳簿記入)

「簿記」という言葉は、「帳簿(ちょうぼ)記入(きにゅう)」の真ん中の文字をとった略語だと言われています。
つまり、「ノート(帳簿)に、お金のやり取りを記録(記入)すること」
です。

ただし、お小遣い帳のような「お菓子 100円」という単純なメモではなく、会社規模の複雑な取引を誰が見てもわかるように整理するための「世界共通のビジネス言語」とお考えください。

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Step 2:簿記の2つの目的(B/SとP/L)

簿記の目的は、会社の状態を数字でわかるようにすることです。
その目的は大きく2つあります。

  1. 一定時点(ある日)の財産の状態を明らかにする
  2. 一定期間(たとえば1年間)のもうけの結果を明らかにする

この2つを数字で示すために、財務諸表を作成します。
代表的な財務諸表が、次の2つです。

  • 貸借対照表(B/S):一定時点の財産の状態
  • 損益計算書(P/L):一定期間のもうけの結果

貸借対照表(B/S)

:ある日(一定時点)の財産の状態を示す表です。
ふつうは期末(例:3/31)時点の状態をまとめます。

B/Sでわかるのは、たとえば次のようなことです。
  • 今、現金や預金はいくらある?(資産)
  • 今、借金はいくらある?(負債)
  • 資産から負債を引いた純資産はいくら?
3/31 3/31 3/31 今まで頑張ってきた結果

今どれくらい資産がある?

損益計算書(P/L)

:一定期間(会計期間)の経営成績(もうけの結果)を示す表。
たとえば 4/1〜3/31の1年間で、どれだけもうかったかをまとめます。

P/Lでわかるのは、たとえば次のようなことです。
  • この1年間で、売上(収益)はいくら?
  • そのために、費用はいくらかかった?
  • 結果として、利益(または損失)はいくら?
4/1 3/31 会計期間

この1年間でどのくらい収益があった?

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Step 3:誰のために作るのか?(利害関係者)

簿記で作った「決算書」は、誰が見るのでしょうか? これを利害関係者(ステークホルダー)と呼びます。

会社(決算書) 経営者 経営判断 税務署 正しい税金 銀行 返済能力 株主 将来性

図解:ステークホルダー相関図

相手 何を見たい?なぜ見たい?
経営者(自分) 儲けと財産
経営判断をするため。「来年はもっと広告を出そうか?」など。
銀行(債権者) 返済能力
「お金を貸しても、ちゃんと返してくれる会社かな?」
税務署 正しい利益
「儲けをごまかしてないかな? 正しい税金を払ってね。」
出資者(株主) 将来性
「この会社にお金を出して(株を買って)損しないかな?」
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Step 4:簿記の種類(商業簿記 vs 工業簿記)

簿記には大きく分けて2つの種類があります。初級・3級で学ぶのは「商業簿記」です。

商業簿記(3級)

小売業・商社など

商品を「仕入れて売る」業種。計算がシンプル。
※まずはここから!

A社 当社 B社 リンゴ (100円) リンゴ (120円) 20円の利益 ※100円のリンゴを120円で売った
工業簿記(2級)

製造業(メーカー)

材料を買って「加工して(作って)売る」業種。
「いくらで作れたか(原価計算)」が必要になる。

A社 B社 C社 当社 D社 タイヤ(100円) 鉄(120円) エンジン(130円) 車(500円) 150円の利益 ※350円(100+120+130)を500円で売った
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Step 5:単式簿記と複式簿記(簿記の最大の発明)

ここがこの単元で一番面白いところです。簿記には記録方法が2つあります。

1 単式簿記(たんしきぼき)

いわゆる「お小遣い帳」や「家計簿」です。

特徴: 「お金が増えた・減った」という結果だけを1行で書く。
例: 「4/1 商品を仕入れた △1,000円」
欠点:
現金の増減は分かりますが、「商品」の管理ができません。
もし仕入や返品、そして商品の売上を繰り返した場合、『今、手元にいくら分の商品があるのか?』が帳簿を見てもパッと分からなくなってしまいます。
2 複式簿記(ふくしきぼき)

これが私たちが学ぶ簿記です。

特徴: 1つの取引を「2つの側面」から記録する。
例1:商品を1,000円で仕入れた(買った)
  • 側面1: 現金という資産が1,000円減った。
  • 側面2: 商品という資産が1,000円増えた。
メリット: 「現金は減ったけど、代わりに商品が手元にあるな」という財産の変動まで正確に記録できる。
例2:銀行からお金を100万円借りた
  • 側面1: 現金という資産が100万円増えた。
  • 側面2: 借金という負債が100万円増えた。
メリット: 「現金は増えたけど、同時に借金も増えたな」という財産の変動まで正確に記録できる。
【結論:なぜ複式簿記なのか?】

このように、どんな取引も「2つの側面」を持っています。
1つの取引に対して、片方だけでなく両側面から記録するのが複式簿記です。

これにより、単にお金の動きだけでなく、「なぜ動いたか」「今どうなっているか」を立体的に捉えることができます。
これこそが、世界中で単式簿記ではなく複式簿記が採用されている理由であり、簿記の最大の発明と言われるゆえんです。

3 これからの勉強と複式簿記

①「2つの側面」と「5要素(5つのグループ)」のつながり

複式簿記は「1つの取引を2つの側面から記録する」と言います。
この“2つの側面”は、もっと分かりやすく言うと 「5要素(資産・負債・純資産・費用・収益)という5つのグループのうち、どこがどう動いたか」 という見方です。

取引が起きると、必ず会社の状態(=財産やもうけの計算)に変化が出ます。
その変化は、5つのグループの中で、最低でも2つが同時に動く形で表れます。

例:商品を現金で仕入れる
  • 資産(現金)が減る
  • 資産(商品)が増える

つまり、「2つの側面」とは、“どのグループが増えて、どのグループが減ったか(または増えたか)をセットで見る”ということです。
次のStep6では、この“5つのグループ(5要素)”を先に覚えて、取引を整理しやすくします。

②「同時に記録する」って、どうやってやるのか?

では、1つの取引で動いた2つ(以上)のグループを、どうやって同時に記録するのでしょうか。
そのためのルールが 「仕訳」 です。

仕訳は、取引を

借方(左) と 貸方(右)

の2か所に分けて書き、動いた要素を同時に記録する方法です。

次のStep7では、

  • どの要素が「借方」になりやすいのか
  • どの要素が「貸方」になりやすいのか
  • 取引を見た瞬間に、左右に振り分けるコツ

を練習していきます。

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Step 6:簿記の5要素(5つのグループ)

すべての取引は、最終的に以下の5つのグループ(要素)のどれかに分類されます。
「どの箱に入るかな?」と仕分けるための、5つの専用ボックスだと思ってください。

貸借対照表(B/S)をつくる3要素
  • ① 資産 (Assets)
    現金、建物、商品など。
    会社が持っている「プラスの財産」
  • ② 負債 (Liabilities)
    借入金、未払金など。
    将来払わないといけない「マイナスの財産(借金)」
  • ③ 純資産 (Net Assets)
    資本金など。
    返さなくていい「会社の元手」。資産から負債を引いた残り。
損益計算書(P/L)をつくる2要素
  • ④ 収益 (Revenue)
    売上、受取利息など。
    会社に入ってくる「儲けのもと」
  • ⑤ 費用 (Expenses)
    仕入、給料、家賃など。
    収益を得るために使った「コスト」
収益 - 費用 = 利益(もうけ)
💡 「勘定科目(かんじょうかもく)」とは?

5つのグループは、あくまで「チーム分け」です。
実際に帳簿に書くときは、もっと具体的な「名前(ラベル)」を使います。
これを「勘定科目」と呼びます。

グループ(5要素)
資産
勘定科目(具体的な名前)
「現金」「土地」「建物」...

※次の単元で、どんな勘定科目があるか詳しく見ていきます!
今は「5つのグループの中にも、具体的な名前(勘定科目)があるんだな」というイメージだけでOKです。

【イメージ】会社はお金がすべて

簿記の世界には、この5人しか登場人物がいません。
どんなに複雑な取引でも、必ずこの5人の誰かが増えたり減ったりしています。
まずは「これは資産かな? 費用かな?」と区別できるようになることが第一歩です。

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Step 7:仕訳(しわけ)とは

いよいよ簿記の核心、「仕訳」のルールです。
仕訳とは、取引を「借方(左)」と「貸方(右)」に振り分ける作業のことです。

最強のルール:ホームポジション

5つの要素には、それぞれ「定位置(ホームポジション)」が決まっています。
これがすべての基本になります。この図だけは絶対に覚えてください!

借方(左) 貸方(右) 資産(Cashなど) 増えたら左 / 減ったら右 費用(Cost) 発生したら左 負債(Debt) 純資産(Equity) 収益(Revenue) (右側グループ:増えたら右 / 減ったら左)

図解:5要素のホームポジション(定位置)

【仕訳の絶対ルール】
  • 要素が増えた(発生した)ときは、「ホームポジション(定位置)」に書く。
  • 要素が減った(取り消した)ときは、「逆側(反対側)」に書く。
  • 左右の金額の合計は、必ず一致する。

実践:仕訳を作ってみよう

例:商品を現金 100円で仕入れた(買った)。

思考プロセス:

  1. 「商品」という資産が増えた → 資産のホームは左(借方) → 左に「商品 100」
  2. 「現金」という資産が減った → 資産の逆は右(貸方) → 右に「現金 100」
(借方)商品 100
/
(貸方)現金 100

これが「仕訳」の完成形です!