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導入:なぜ貸倒引当金が必要なのか
ストーリー導入:あなたが「ツケ払いOK」の服屋さんだったら?

想像してみてください。あなたは服屋さんを経営しています。
今年、常連のAさんに10万円のコートを「代金は来月でいいよ」と掛け(ツケ)で販売しました。現金はまだ受け取っていませんが、 帳簿には「売上 10万円」「売掛金 10万円」が立っています。

ところが年末の決算直前、こんな情報が入ります。
「Aさん、かなり資金繰りが悪くて、このままだと代金を払えないかもしれない……」

得意先の倒産などで、売掛金などの債権を回収できなくなることを貸倒れ(かしだおれ)といいます。
さて、Aさんが危ないという情報が入ったとき、帳簿や決算書をそのままにしておくと何が問題なのでしょうか。大きな問題が2つあります。

1. 売掛金は残す まだ請求権はあるので、売掛金そのものは消しません。
2. 見込みを費用にする 回収できないかもしれない分を、当期の費用として見積もります。
3. 資産を実質額で見せる 貸倒引当金を売掛金のマイナスとして置き、B/Sを現実に近づけます。

① B/S(貸借対照表)の問題:資産を大きく見せすぎている

帳簿上は「10万円もらえる権利(売掛金)」があります。しかし、現実には返ってこないかもしれません。
それなのに決算書に「売掛金 100,000円」と満額で載せると、会社の財産を実際より大きく見せることになってしまいます。

② P/L(損益計算書)のズレ:今年の失敗を、来年に押し付けている

当期の売上によって生まれた売掛金が回収できなくなるリスク(損失)は、本来「当期の売上」に原因(起因)があるものです。
それなのに、翌期以降になってから「やっぱり回収できませんでした」と翌期の損失として処理してしまうと、今年は損失が反映されないので 「利益が出た!」と見えてしまい、来年は今年の損失が急に表れて「急に大損した!」となってしまいます。
売上(収益)を立てた年と、その売上が原因で発生した損失(費用)を負担する年がズレてしまうのです。これは、簿記の重要ルールである 費用収益対応の原則に反してしまいます。

この2つの問題を、決算のタイミングで一気に直すクッション。
それが貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)です。

貸倒引当金を設定することで、2つの決算書は次のように「正しい姿」へと生まれ変わります。

P/L(損益計算書)では:
「将来回収できなくなる見込みの金額」を、あらかじめ当期の費用として計上します。これにより、今年の売上が原因となる損を、ちゃんと今年のうちに負担させることができます。

B/S(貸借対照表)では:
売掛金を満額のまま載せるのではなく、「回収できなさそうな分」を差し引いて、実際に回収できそうなリアルな金額(実質的な価値)に近づけて見せることができます。

💡 このページの前提 このページでは売掛金に絞って解説します

貸倒引当金は、本来は売掛金・受取手形・貸付金などの債権全体に関わる論点です。
ただ、初学者が最初に理解すべき流れは共通なので、このページではまず売掛金に絞って説明します。
売掛金で流れがつかめれば、他の債権にもそのまま応用できます。

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全体像
【決算日の処理】計算方法と差額補充法

① 目標クッション額の計算式

決算日に、まず「来年いくらクッションが必要か」という目標金額を計算します。

目標金額(回収不能見込み額) = 期末売掛金残高 × 貸倒実績率

② 差額補充法の3つの仕訳パターン

仕訳を切るときは、目標金額をそのまま書くのではなく、「いま手元に残っているクッションの使い残し(決算整理前残高)」と見比べて、差額だけを調整します。

A パターンA:手元の残高が「ゼロ」のとき

目標額をそのまま全額カウントして積み上げます。

×××目標額
×××目標額
B パターンB:手元の残高が「足りない」とき

目標額に届くように、不足分だけを追加で補充します。

×××不足分
×××不足分

※「貸倒引当金繰入」は費用なので、借方(左側)に書きます。

C パターンC:手元の残高が「多すぎる」とき

目標額を超えて余っている分を、削って(取り崩して)元に戻します。

×××多すぎる分
×××多すぎる分

※余った分は収益である「貸倒引当金戻入(収益)」として右側に書きます。

【翌期以降の処理】本当に貸倒れた時の分かれ道

年が明けて、本当に貸倒れ(回収不能)が確定してしまったら、その損害は「貸倒損失(かしだおれそんしつ)」という勘定科目(費用)を使って処理します。
ただし、「いつ生まれた売掛金が貸倒れたか」によって、仕訳のやり方が完全に2つに分かれます。ここが試験の最大の引っかけポイントです!

A パターンA:【前期以前】の売掛金が貸倒れた場合

去年から持っていた売掛金なので、去年の決算で貸倒引当金(専用のクッション)を準備してあります。まずはそれを使ってダメージを吸収しましょう。

1. クッションが十分にある時

全額クッションで受け止めるため、今年の新しい損(費用)は出ません。

×××貸倒れ額
×××貸倒れ額
2. クッションが一部しかなくて足りない時

あるだけのクッションを全額使い切り、防ぎきれずに貫通した分だけを「当期の追加ダメージ」として今年の費用にします。

×××引当金残高
×××不足分
×××貸倒れ額
3. クッションが全く(0円)ない時

守ってくれるものが何もないので、諦めて全額を今年の費用にします。

×××貸倒れ額
×××貸倒れ額
B パターンB:【当期発生】の売掛金が貸倒れた場合(★超危険トラップ)

今年新しく売って生まれた売掛金が、その年のうちに貸倒れてしまった場合です。去年の決算の時にはまだ存在していなかったため、この売掛金を守るためのクッションは用意されていません。

1. 無条件で全額を「貸倒損失」にする(クッション使用不可!)

帳簿にどれだけ貸倒引当金の使い残しがあっても、絶対に1円も使ってはいけません。無条件で全額を今年の費用にします。

×××貸倒れ額
×××貸倒れ額

なぜ使えないの?:手元に残っているクッションは、あくまで「去年の年末に残っていた売掛金」のためだけに作った専用品だからです。今年生まれた売掛金は、そのクッションの対象外(仲間外れ)なのです。

無料プレビューはここまで

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この先では、例題・判断手順・演習を使って理解を完成させます。

  • 言葉の定義と計算式:ここで迷子をゼロにする
  • Step 1:決算 - 貸倒引当金の設定 -
  • Step 2:翌期以降の処理
  • まとめ:このページの筋だけ1分で復習
  • その他の演習・確認問題