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貸倒引当金
重要度:★★★★▼
貸倒引当金
売上を立てた年に、その売上が将来回収できなくなるリスクも同じ年の費用として見積もる。
P/Lでは利益の出すぎを防ぎ、B/Sでは売掛金を実質額に近づける。1本の仕訳で両方を直す。
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導入:なぜ貸倒引当金が必要なのか
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想像してみてください。あなたは服屋さんを経営しています。
今年、常連のAさんに10万円のコートを「代金は来月でいいよ」と掛け(ツケ)で販売しました。現金はまだ受け取っていませんが、
帳簿には「売上 10万円」「売掛金 10万円」が立っています。
ところが年末の決算直前、こんな情報が入ります。
「Aさん、かなり資金繰りが悪くて、このままだと代金を払えないかもしれない……」
得意先の倒産などで、売掛金などの債権を回収できなくなることを貸倒れ(かしだおれ)といいます。
さて、Aさんが危ないという情報が入ったとき、帳簿や決算書をそのままにしておくと何が問題なのでしょうか。大きな問題が2つあります。
① B/S(貸借対照表)の問題:資産を大きく見せすぎている
帳簿上は「10万円もらえる権利(売掛金)」があります。しかし、現実には返ってこないかもしれません。
それなのに決算書に「売掛金 100,000円」と満額で載せると、会社の財産を実際より大きく見せることになってしまいます。
② P/L(損益計算書)のズレ:今年の失敗を、来年に押し付けている
当期の売上によって生まれた売掛金が回収できなくなるリスク(損失)は、本来「当期の売上」に原因(起因)があるものです。
それなのに、翌期以降になってから「やっぱり回収できませんでした」と翌期の損失として処理してしまうと、今年は損失が反映されないので
「利益が出た!」と見えてしまい、来年は今年の損失が急に表れて「急に大損した!」となってしまいます。
売上(収益)を立てた年と、その売上が原因で発生した損失(費用)を負担する年がズレてしまうのです。これは、簿記の重要ルールである
費用収益対応の原則に反してしまいます。
この2つの問題を、決算のタイミングで一気に直すクッション。
それが貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)です。
貸倒引当金を設定することで、2つの決算書は次のように「正しい姿」へと生まれ変わります。
P/L(損益計算書)では:
「将来回収できなくなる見込みの金額」を、あらかじめ当期の費用として計上します。これにより、今年の売上が原因となる損を、ちゃんと今年のうちに負担させることができます。
B/S(貸借対照表)では:
売掛金を満額のまま載せるのではなく、「回収できなさそうな分」を差し引いて、実際に回収できそうなリアルな金額(実質的な価値)に近づけて見せることができます。
貸倒引当金は、本来は売掛金・受取手形・貸付金などの債権全体に関わる論点です。
ただ、初学者が最初に理解すべき流れは共通なので、このページではまず売掛金に絞って説明します。
売掛金で流れがつかめれば、他の債権にもそのまま応用できます。
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全体像
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決 【決算日の処理】計算方法と差額補充法
① 目標クッション額の計算式
決算日に、まず「来年いくらクッションが必要か」という目標金額を計算します。
② 差額補充法の3つの仕訳パターン
仕訳を切るときは、目標金額をそのまま書くのではなく、「いま手元に残っているクッションの使い残し(決算整理前残高)」と見比べて、差額だけを調整します。
A パターンA:手元の残高が「ゼロ」のとき
目標額をそのまま全額カウントして積み上げます。
B パターンB:手元の残高が「足りない」とき
目標額に届くように、不足分だけを追加で補充します。
※「貸倒引当金繰入」は費用なので、借方(左側)に書きます。
C パターンC:手元の残高が「多すぎる」とき
目標額を超えて余っている分を、削って(取り崩して)元に戻します。
※余った分は収益である「貸倒引当金戻入(収益)」として右側に書きます。
翌 【翌期以降の処理】本当に貸倒れた時の分かれ道
年が明けて、本当に貸倒れ(回収不能)が確定してしまったら、その損害は「貸倒損失(かしだおれそんしつ)」という勘定科目(費用)を使って処理します。
ただし、「いつ生まれた売掛金が貸倒れたか」によって、仕訳のやり方が完全に2つに分かれます。ここが試験の最大の引っかけポイントです!
A パターンA:【前期以前】の売掛金が貸倒れた場合
去年から持っていた売掛金なので、去年の決算で貸倒引当金(専用のクッション)を準備してあります。まずはそれを使ってダメージを吸収しましょう。
全額クッションで受け止めるため、今年の新しい損(費用)は出ません。
あるだけのクッションを全額使い切り、防ぎきれずに貫通した分だけを「当期の追加ダメージ」として今年の費用にします。
守ってくれるものが何もないので、諦めて全額を今年の費用にします。
B パターンB:【当期発生】の売掛金が貸倒れた場合(★超危険トラップ)
今年新しく売って生まれた売掛金が、その年のうちに貸倒れてしまった場合です。去年の決算の時にはまだ存在していなかったため、この売掛金を守るためのクッションは用意されていません。
帳簿にどれだけ貸倒引当金の使い残しがあっても、絶対に1円も使ってはいけません。無条件で全額を今年の費用にします。
なぜ使えないの?:手元に残っているクッションは、あくまで「去年の年末に残っていた売掛金」のためだけに作った専用品だからです。今年生まれた売掛金は、そのクッションの対象外(仲間外れ)なのです。
貸倒引当金の続きは会員ページで学べます
この先では、例題・判断手順・演習を使って理解を完成させます。
- 言葉の定義と計算式:ここで迷子をゼロにする
- Step 1:決算 - 貸倒引当金の設定 -
- Step 2:翌期以降の処理
- まとめ:このページの筋だけ1分で復習
- その他の演習・確認問題
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言葉の定義と計算式:ここで迷子をゼロにする
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| 用語 | ひとことで | 代表例 | ここが大事 |
|---|---|---|---|
| 売上債権 | 本業の売上によって生じた「あとでもらう権利」 | 売掛金、受取手形 | 貸倒引当金の説明ではまずここが主役です。 |
| 金銭債権 | 商品販売以外で生じた「あとでもらう権利」 | 貸付金、未収入金 | 売上債権と区別して出ても、貸倒引当金の考え方は同じです。 |
| 貸倒れ | もらえるはずだったお金が、回収不能になること | 倒産、行方不明など | 「見込み」ではなく「確定」です。 |
| 貸倒引当金 | 期末の債権について、翌期以降の回収不能見込みを前もって積むもの | 売上債権や金銭債権に対して設定 | 負債ではなく、各債権の横に置く資産のマイナスです。 |
| 貸倒実績率 | 過去の経験から見た「だいたいこのくらい回収できない」という割合 | 2% など | 3級ではこれを使う基本問題が中心です。 |
| 貸倒損失 | 貸倒れが確定したときに認識する損失 | 不足分、当期発生分 | 「確定した損」を入れる箱です。 |
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Step 1:決算 - 貸倒引当金の設定 -
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1 貸倒れの見積額の算定方法
決算日を迎えました。今年の売掛金に対して「来年、回収できなくなるかもしれない金額」を見積もって、準備をしておきます。
まずは、期末の売掛金について「いくら回収できなさそうか=回収不能見込み額(=いくら引当金を用意しておくべきか)」を計算します。 試験では次の式をそのまま使います。
- 回収不能見込み額:期末売掛金残高 × 貸倒実績率で計算する、将来回収できないと見込む金額
- 貸倒実績率:「過去の経験上、だいたい何%くらいは回収できなくなる」という割合。問題文で2%などと指示されます。
例 例題(決算:見積計算)
決算日。期末売掛金 500,000円、貸倒実績率 2% とする。
回収不能見込み額はいくらか。
まず、この計算で「何を求めたのか」をしっかりイメージしましょう。
計算の目的:「目標のクッション額(貸倒引当金)」を決めること
この計算は、「いま帳簿にある売掛金のうち、来年どれくらい回収できなくなりそうか?」という未来の危険度を予測するためのものです。
500,000円: 決算日時点で、まだお客さんから回収できていないツケ(売掛金)の総額です。
2%: 「過去の経験上、だいたいこのくらいの割合で回収できなくなる」という実績データ(貸倒実績率)です。
これを掛け合わせた 10,000円(500,000×2%) という数字が、決算が終わったあとに「貸倒引当金(クッション)の残高として、最終的に残っていてほしい目標金額」になります。
初学者が勘違いしやすいポイント
ここで一番大事なのは、この10,000円は「今すぐ誰かが倒産して損をした額」ではないということです。
今はまだ誰も倒産していませんし、本当は来年50万円全額を回収できるかもしれません。しかし、「念のため、これくらいは失敗するリスクとして覚悟して準備しておこう」という、あくまで見込みの金額なのです。
ここから先の決算整理仕訳では、この「10,000円」という目標金額に向けて、帳簿のクッション(貸倒引当金)を足したり引いたりして調整していくことになります。
2 決算整理仕訳
目標金額が決まったら、決算整理仕訳を切ります。まずは金額を気にせず、勘定科目の「型」を押さえてください。
借方:貸倒引当金繰入(費用)
「今年の売上には、これくらい失敗リスクがあるよ」という今年の覚悟。
今年の費用としてP/Lに計上します。
貸方:貸倒引当金(資産のマイナス)
「全部は回収できないかもしれない」というB/S用のクッションです。
貸倒引当金を
設定した時
(準備していた
貸倒引当金を取り崩して使った時)
(来年のために
貸倒引当金を準備・補充した時)
補 【コラム】「貸倒引当金繰入」は左側(借方)しか使わない
費用の勘定科目である「貸倒引当金繰入」は、基本的に借方(左)しか使わず、貸方(右側)に記入して金額を減らすようなことはしません。
「えっ、もし去年準備したクッション(貸倒引当金)が多すぎて減らしたい時は、右側に書いて費用を減らすんじゃないの?」と思うかもしれません。
実は簿記には、クッションが多すぎて元に戻すときには、「貸倒引当金繰入」の右側を使わないで、「貸倒引当金戻入(収益)」というまったく別の勘定科目を使用するというルールがあります。
足りなくて追加する時:費用の勘定科目である「貸倒引当金繰入」を左に書く
多すぎて元に戻す時:収益の勘定科目である「貸倒引当金戻入」を右に書く
「多すぎた分が戻ってきたから、ちょっと得をした(収益)!」というイメージですね。
費用を直接マイナスにするのではなく、別の収益の勘定科目を使用することで、決算書を見た人が「あ、今年は去年のクッションが余って戻ってきたんだな」と一目でわかるようになっています。だから、「貸倒引当金繰入」の右側は出番がないのです。
補 【コラム】なぜ貸倒引当金は「貸方(右側)」なの?負債なの?
仕訳を見るとき、「なぜ貸倒引当金は右側(貸方)に増えるのか?」と疑問に思うかもしれません。
売掛金(資産)の価値を減らしたいなら、資産のマイナスとして右側に書くのが簿記のルールですよね。
「だったら、直接『(貸)売掛金 10,000』として、売掛金そのものを減らせばよいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、それをやってはいけません。なぜなら、法律上はまだ「満額の500,000円を請求する権利」がしっかり残っているからです。勝手に帳簿上の売掛金そのものを削ってしまうと、「本当は相手にいくら請求できるのか」が分からなくなってしまいます。
そこで、「売掛金本体はそのまま残しつつ、実質的な価値を下げるための専用のマイナス箱」を作ります。これが貸倒引当金です。
資産(左側)を打ち消す役割なので、反対の右側(貸方)をホームポジションとします。
負債ではありません。あとでお金を払う義務があるわけではないですよね。
この勘定だけは少し特殊で、資産(売掛金)のマイナス勘定です。こうした勘定を、会計では「資産の評価勘定」と呼びます。
「売掛金の実質的な額が分かるように、売掛金の横に置くマイナス項目」だとイメージしてください。
続 貸倒引当金を、売掛金とセットで見る(t字勘定で見る)
帳簿の中では、この2つがどのように綱引きをしているのかを見てみましょう。
左側に 500,000円。「あとで受け取れる権利」が堂々と存在しています。
右側に 10,000円。売掛金の価値を調整する「マイナス項目」として存在しています。
この2つをセットで見ると、「売掛金は500,000円あるけれど、10,000円は回収できない見込みなので、実質的な価値は490,000円だな」と分かります。
続 貸倒引当金を、売掛金とセットで見る(B/Sで見る)
では、この「帳簿の中での綱引き」の状態を、最終的な決算書(B/S)で外部の人にどう報告するのでしょうか?
ここでも、いきなり「売掛金 490,000円」と差し引き後のウソの金額を書いてはいけません。
B/Sでは、次のように「もとの売掛金」とそのすぐ下に「回収できなさそうな額」を並べて、正直にすべてを見せます。
| 売掛金 | 500,000 |
| 貸倒引当金 | △10,000 |
| 売掛金の実質額 | 490,000 |
※「△」は、簿記の世界で「マイナス」を表す記号です。
資産の部では、売掛金 500,000 をいきなり 490,000 に書き換えているのではありません。
まず売掛金を 500,000 と示し、そのすぐ下に 貸倒引当金 △10,000 を置いて、差し引いた結果として「売掛金の実質額 490,000」と読ませています。
こうすることで、B/Sを見た人は「この会社は50万円の請求権を持っているが、そのうち1万円は回収できないと見込んでいる。だから実質は49万円だな」と、会社の資産の実態を読み取れます。
例 例題で確認する
回収不能見込み額 10,000円を決算で設定する。仕訳を行いなさい。
この問題では、回収不能見込み額(貸倒引当金として設定したい額)が 10,000円 だとすでに分かっています。
したがって、決算整理仕訳ではこの 10,000円という数字を使って、「① 今年の費用を出す」ことと、「② 売掛金に対するマイナス項目を用意する」ことの2つを同時に行います。
借方(左側)の意味
左側に「貸倒引当金繰入(費用)」を計上することで、今年の損益計算書(P/L)に 10,000円の費用が生まれます。
これは、「今年立てた売上の中には、将来回収できなくなる失敗リスクが10,000円分含まれている」と、今年の成績に正直にマイナスを反映させている状態です。
貸方(右側)の意味
右側に「貸倒引当金(資産のマイナス)」を計上することで、貸借対照表(B/S)に 10,000円のマイナスのクッションが生まれます。
売掛金そのものの金額は直接減らさずに、売掛金に対応するマイナス勘定を作ることで、「満額は回収できないかもしれない」という見積もりを反映している状態です。
たとえば、期末の売掛金が 500,000円ある場面なら、この仕訳を切ることで B/Sには「売掛金 500,000円」のすぐ下に「貸倒引当金 △10,000円」が並んで表示されるようになります。実質的には 490,000円の価値だと読むことができます。
3 差額補充法
クッション(貸倒引当金)の金額(例:10,000円)が決まりました。では、仕訳の金額には「10,000」と書けばいいのでしょうか。
実は、すでに手元にクッション(貸倒引当金)の使い残しがあるかを確認しなければなりません。
前期に作った引当金が使われずに残っている場合、目標額との差額だけを補充(または減らす)します。 これを差額補充法といい、3つのパターンがあります。
| パターン | 手元の残高 | 回収不能見込み額(設定したい引当金の額) | どうする? | 決算整理仕訳 |
|---|---|---|---|---|
| ① ゼロ | 0円 | 10,000円 | 10,000円を全額積む |
貸倒引当金繰入
10,000
貸倒引当金
10,000
|
| ② 足りない | 7,000円 | 10,000円 | 不足分の3,000円だけ追加 |
貸倒引当金繰入
3,000
貸倒引当金
3,000
|
| ③ 多すぎる | 12,000円 | 10,000円 | 多すぎる2,000円を戻す |
貸倒引当金
2,000
貸倒引当金戻入
2,000
|
※多すぎた場合は、貸方に貸倒引当金戻入(収益)という科目を使って利益として取り戻します。
1 例題1:決算整理前の残高がない時
決算日。期末売掛金 300,000円、貸倒実績率 2%、決算整理前の貸倒引当金残高 0円 とする。
差額補充法による決算整理仕訳を示しなさい。
差額補充法の問題は、いつも同じ「3つのステップ」で考えます。
Step1:貸倒引当金(クッション額)を計算する
期末売掛金 300,000円 × 貸倒実績率2% = 6,000円
(決算のあとに、6,000円の貸倒引当金(クッション額)が残っている状態にしたい!)
Step2:いま手元にある残高を確認する
決算整理前の残高は 0円 です。
Step3:差額を調整する(どう考えるか?)
欲しいのは 6,000円。今あるのは 0円。
つまり、不足分どころか「全部」が足りません。したがって、目標額である 6,000円をそのまま全額積み上げます。
仕訳によって、左側(借方)に「貸倒引当金繰入(費用) 6,000円」が発生し、今年のP/Lに費用として載ります。
そして右側(貸方)に「貸倒引当金 6,000円」が新しく積み上がり、無事に目標額(0 + 6,000 = 6,000円)のクッションが完成しました。
2 例題2:決算整理前の残高がある時(足りないときは追加で積む)
決算日。期末売掛金 500,000円、貸倒実績率 2%、決算整理前の貸倒引当金残高 7,000円 とする。
差額補充法による決算整理仕訳を示しなさい。
実際の商売では、この「使い残しがあるパターン」が一番よく出題されます。
Step1:貸倒引当金(クッション額)を計算する
期末売掛金 500,000円 × 貸倒実績率2% = 10,000円
(決算のあとに、10,000円の貸倒引当金(クッション額)が残っている状態にしたい!)
Step2:いま手元にある残高を確認する
決算整理前の時点で、すでに 7,000円 の使い残しがあります。
Step3:差額を調整する(どう考えるか?)
欲しいのは 10,000円。今あるのは 7,000円。
すでに7,000円分は準備できているので、足りない分の「3,000円」だけを追加で積み上げます。
(計算式:目標 10,000 - 残高 7,000 = 差額 3,000)
仕訳によって、追加した「3,000円」だけが今年の費用(貸倒引当金繰入)になります。
右側(貸方)の貸倒引当金は、「もともとあった 7,000円」に「今回追加した 3,000円」が合体して、無事に目標額の 10,000円(7,000 + 3,000 = 10,000円)が完成しました。
3 例題3:決算整理前の残高がある時(多すぎるときは戻す)
決算日。期末売掛金 400,000円、貸倒実績率 2%、決算整理前の貸倒引当金残高 10,000円 とする。
差額補充法による決算整理仕訳を示しなさい。
解説:3ステップで考えよう
最後は少し特殊なパターンです。引当金が「余りすぎてしまった」らどうするのでしょうか?
Step1:貸倒引当金(クッション額)を計算する
期末売掛金 400,000円 × 貸倒実績率2% = 8,000円
(決算のあとに、8,000円の貸倒引当金(クッション額)が残っている状態にしたい!)
Step2:いま手元にある残高を確認する
決算整理前の時点で、10,000円 もの使い残しがあります。
Step3:差額を調整する(どう考えるか?)
欲しいのは 8,000円。今あるのは 10,000円。
目標よりも 2,000円「多すぎる」状態です。多すぎるクッションはそのまま放置せず、余った「2,000円」を減らして(取り崩して)調整します。
(計算式:目標 8,000 - 残高 10,000 = 差額 △2,000)
新しい勘定科目「貸倒引当金戻入」
クッションを減らすため、仕訳の左側(借方)に「貸倒引当金 2,000」を書いてマイナスします。
そして右側(貸方)には、「貸倒引当金戻入(かしだおれひきあてきんもどしいれ)」という収益の勘定科目を使います。
「去年の決算で費用(損)として見積もっていたけれど、実際にはそこまで損しなかった」ということで、余った分を今年の「利益(収益)」として取り戻すのです。
今年のP/Lには、費用ではなく「収益(戻入) 2,000円」が出ます。
右側(貸方)の貸倒引当金は、もともとあった 10,000円から、左側(借方)で 2,000円削られたため、無事に目標額の 8,000円(10,000 - 2,000 = 8,000円)に着地しました。
5
Step 2:翌期以降の処理
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さて、年が明けて翌期になりました。恐れていた事態が起きます。
「取引先が倒産し、売掛金が回収できなくなった(貸倒れが確定した)」のです。
新しい勘定科目「貸倒損失」の登場
このように、貸倒れ(回収不能)が実際に確定したとき、その回収できなくなった損害は「貸倒損失(かしだおれそんしつ)」という勘定科目を使って処理します。
確定した時 ×××
クッション(引当金)で受け止めきれず、完全に確定してしまった損額を入れる勘定科目です。費用のグループなので、ホームポジションは左側(借方)です。
仕訳の左側に「貸倒損失」が計上されることで、「これだけの損が確定した!」と今年のP/L(成績)にマイナスとして記録されます。
いきなり全額を「貸倒損失」にしていいの?
貸倒れが起きたからといって、何も考えずに全額を「貸倒損失(今年の費用)」にしていいわけではありません。
ここで、簿記3級最大の分かれ道がやってきます。それは「いつ発生した売掛金が貸倒れたのか?」を確認することです。
A
パターンA:【前期以前】の売掛金が貸倒れた場合
去年から持ち越していた売掛金が貸倒れた場合は、前期の決算ですでに「貸倒引当金(クッション)」を準備してあります。だから、まずはそのクッションでダメージを受け止めます。
そして、クッションで防ぎきれなかった(足りなかった)分だけを、当期の「貸倒損失」にします。
| ケース | 状況 | 仕訳 | 解説 |
|---|---|---|---|
| ① 引当金が十分 | 引当金20,000円。今回8,000円が貸倒れ。 |
貸倒引当金
8,000
売掛金
8,000
|
クッションの範囲内なので、今年の費用は出ません。 |
| ② 引当金が足りない | 引当金12,000円。今回20,000円が貸倒れ。 |
貸倒引当金
12,000
貸倒損失
8,000
売掛金
20,000
|
足りなかった8,000円だけを貸倒損失にします。 |
| ③ 引当金がない | 引当金0円。今回15,000円が貸倒れ。 |
貸倒損失
15,000
売掛金
15,000
|
クッションがないので、全額を貸倒損失にします。 |
B
パターンB:【当期発生】の売掛金が貸倒れた場合
今年新しく生まれた売掛金がその年のうちに貸倒れた場合は、絶対に引当金(クッション)を使ってはいけません!
無条件で、全額を「貸倒損失」として処理します。
| ケース | 状況 | 仕訳 | 解説 |
|---|---|---|---|
| 当期発生 | 当期に掛けで売った12,000円が、当期中に貸倒れた。帳簿には前期からの引当金が15,000円残っている。 |
貸倒損失
12,000
売掛金
12,000
|
当期発生なので、引当金は使わず全額を貸倒損失にします。 |
帳簿に引当金が残っていたとしても、使ってはいけません。
なぜなら、引当金は「前期末に残っていた売掛金」に対して準備した専用クッションだからです。当期に新しく生まれた売掛金は、そのクッションの対象外です。
したがって、当期に発生した売掛金が貸倒れた場合は、無条件で全額を貸倒損失(当期の費用)として処理します。
1 例題:前期以前の売掛金が貸倒れた時
前期以前の売掛金が貸倒れたら、まず前期に積んだ貸倒引当金で受け止める。
足りない分だけ当期の貸倒損失にします。
① 引当金が十分にある時
前期末の貸倒引当金残高 20,000円。
当期に、前期以前の売掛金 8,000円 が貸倒れ確定した。
必要な仕訳を示しなさい。
前期に積んでおいた貸倒引当金が 20,000円 あり、今回の貸倒れは 8,000円 です。
つまり、前期に用意していたクッションの範囲内で、今回のダメージを完全に吸収できます。したがって、当期のP/Lに新しい損(貸倒損失)は一切出ません。
「前期に積んでおいたクッションをここで使って、ダメージを吸収した」という意味です。
「もう回収できなくなった権利(売掛金)を帳簿から消して減らした」という意味です。
② 引当金が一部しかない時
前期末の貸倒引当金残高 12,000円。
当期に、前期以前の売掛金 20,000円 が貸倒れた。
必要な仕訳を示しなさい。
貸倒れは 20,000円 ですが、前期に用意していたクッション(貸倒引当金)は 12,000円 しかありません。
そこで、まずは前期の準備分 12,000円 を全額使い切り、それでも防ぎきれなかった「足りない分の 8,000円」だけを、当期の費用(貸倒損失)として認識します。
貸倒引当金 12,000 は「前期に積んでおいた準備分で受け止めた部分」です。
貸倒損失 8,000 は「それでも足りずに貫通してしまった分を、当期の損失として出した部分」です。
「回収できなくなった売掛金全体を帳簿から消した」という意味です。
③ 引当金が全くない時
当期に、前期以前の売掛金 15,000円 が貸倒れ確定した。
貸倒引当金残高は 0円。
必要な仕訳を示しなさい。
売掛金 15,000 は、もう回収できない売掛金を帳簿から消した、という意味です。
前期に使える貸倒引当金が残っていないので、今回は準備(ガード)なしで貸倒れが確定した状態です。
クッションでダメージを吸収できないため、確定した損失 15,000円 を当期のP/Lにそのまま費用として出すしかありません。
「使えるクッションが1円もないので、確定した損失をそのまま全額、当期の費用にした」という意味です。
「もう回収できない売掛金を帳簿から消した」という意味です。
補 【コラム】なぜ不足分を当期の貸倒損失にしてよいのか
「去年の売上から出た売掛金なのに、なんで今年の貸倒損失(費用)にしちゃっていいの? 費用収益対応の原則に反しない?」と疑問に思うかもしれません。これはとても鋭い視点です!
実はこれ、去年の失敗の尻拭いをさせられているわけではありません。「当期に入ってから状況が急変した分のダメージ」として処理しているのです。
前期の決算のとき、「この売掛金は、12,000円くらい貸倒れそうだ」という見積もりは、その時点では妥当で正しいものでした。
しかし当期に入ってから、相手先の業績悪化や倒産などで状況が急変し、結果的に20,000円の貸倒れになってしまった。
つまり、見積もりを超えてしまった「8,000円」は、当期に入ってから起きた追加ダメージ(当期の原因による悪化)だとみなせるのです。だから、当期の費用(貸倒損失)にして問題ありません。
もし前期末の時点で引当金が0円だったなら、それは「前期末の時点では、全額回収できる見込みだった(優良な取引先だった)」ということです。
それが当期になって急変し、貸倒れが確定してしまった。これは完全に「当期に起きた予期せぬ出来事」です。だから、前期の成績表に無理やり押し込むのではなく、当期の出来事として当期の費用にするのが自然です。
このように、ここでの貸倒損失は「前期の売掛金が原因」というよりも、「当期に入ってから発生した追加の悪化分」として処理されているため、簿記のルールにしっかり沿った正しい処理なのです。
2 例題:当期発生の売掛金がその期のうちに貸倒れた時
当期に発生した売掛金は、前期末にはまだ存在していません。したがって、 引当金は使わず、貸倒損失で処理します。
① 例題1(基本形)
当期7月、商品を 60,000円 で掛け販売したが、同月中に得意先の倒産により回収不能が確定した。
貸倒時の仕訳を示しなさい。
この売掛金は当期に新しく発生し、その同じ当期中に貸倒れが確定しています。
つまり、前期末に積んだ「貸倒引当金(専用クッション)」の守備範囲外(対象外)の出来事です。したがって、見込みではなく「確定した損失」として、全額を貸倒損失で処理します。
「当期中に確定した損失を、そのままダイレクトに当期の費用にした」という意味です。
「回収できなくなった売掛金を帳簿から消した」という意味です。
② 例題2(試験の引っかけ)
当期末の決算整理前、帳簿上の貸倒引当金残高は 15,000円ある。
しかし当期9月、当期に掛け販売して発生した売掛金 12,000円 が同月中に貸倒れ確定した。
貸倒時の仕訳を示しなさい。
問題文に「引当金が15,000円ある」と書いてあると、つい使いたくなってしまいますが、これが試験の定番トラップです。
帳簿に貸倒引当金残高があっても、それはあくまで「前期末に残っていた売掛金」を守るための専用品です。今回の売掛金は当期に新しく発生したものなので、引当金の対象外(仲間外れ)です。
したがって、クッションが余っていたとしても絶対に使わず、全額を貸倒損失で処理します。
「クッションは使わず、今回の貸倒れを全額、当期の費用として処理した」という意味です。
「回収不能になった売掛金を帳簿から消した」という意味です。
当期に新しく発生した売掛金が、その期のうちに貸倒れ確定したら、引当金ではなく貸倒損失。
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まとめ:このページの筋だけ1分で復習
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- □ 貸倒実績率をかける相手は、「期末」の売掛金残高になっているか?
- □ 決算の仕訳のとき、使い残しの残高をちゃんと引き算(または足し算)したか?
- □ 翌期に貸倒れたとき、問題文の売掛金が「前期以前のもの」か「当期発生のもの」かを真っ先に確認したか?
この全体像が頭に入っていれば、貸倒引当金のパズルはどんな問題でも解くことができます。
それぞれの詳しいストーリーや具体的な例題での数字の動きは、この下の解説カードでじっくり確認していきましょう!